Ibasyo Book Journey プロジェクトについて

Ibasyo プロジェクト

これは、自傷行為をしてしまう女の子たちの日常を追ったドキュメンタリー写真のプロジェクトです。

http://kosukeokahara.com/jp/?page_id=546

2004年〜2008年まで主に撮影を続け、その後も少しずつですが、撮影を続けています。

米タイム誌のオンライン版
http://content.time.com/time/photogallery/0,29307,1809157,00.html

ニューヨーク・タイムズ
http://lens.blogs.nytimes.com/2015/01/05/a-photo-book-for-its-subjects/?_r=0

 

『エピローグ』
夜12時を少し過ぎた頃、いつものように携帯電話が鳴った。 「また切っちゃった…。でも大丈夫だよ…」

大丈夫に聞こえないさゆりの声が電話口から聞こえてきた。 「あたしなぁ、レイプされたんよ…。それから自分の価値とか感じられないようになってなぁ…。自分のこと大切にしなさいって色んな人に何度も言われたけど、こんな汚い自分のこと大切にって言われても、どうしたらいいのか分からん のよ」
生気の抜けた声が泣き声に変わる。少したってまた

「ごめんね、大丈夫だよ…。明日も仕事がんばるよ…」

貧困、レイプ、いじめ、家庭内暴力。自傷行為の裏にあるもの。それらは今まで聞いたことはあっても、実際に近くに 感じたことのないものだった。 日本に存在する「恥の文化」が良い意味でも悪い意味でも、それらが表に出ることを防いできた。東京から1時間 のところに貧困は存在し、借金取りが毎日やってくる生活があった。レイプは僕が卒業した大学内でも起きていた。

深い心の傷は彼女らの自尊心を奪ってしまった。うつやパニック障害のためまともに働くことができない状態に、自らの価値を認識できず、自分は役に立たない存在と思いこんでしまう。その結果の自傷行為。 「価値がない(と思い込んでいる)自分」を傷つけることで、自らの存在を肯定しようとする。しかし、その傷を見ては「してはいけないことをしてしまった」と自己嫌悪に陥る悪循環。そんな彼女たちの生活は苦痛に満ちている。

彼女らは自らの行為を正当化しようとは思っていない。ただ彼女たちの存在は、日本が抱えている現代社会の陰の一 端を示している。

「自分のことを大切にするってどういうことなのかな…。誰か教えてくれないかな…」

そう言ってさゆりは電話を切った。

 

旅する写真集プロジェクト

ドキュメンタリー写真やフォトジャーナリズムと言われる分野の写真は、往々にして「じゃぁ被写体に何かいいことあったの?」という疑問がついて回ります。また、人の不幸で飯を食っているという議論も昔からあります。

写真で被写体に何かできるのか。いくら理想をもって活動していても、簡単なことではありません。情報を広めるということが第一の目的であり、誰かに手を差し伸べることは写真の役目とは言えないかもしれません。ただ、同僚も含め、常にこの疑問が頭のどこかにあるのがドキュメンタリー写真家やフォトジャーナリストと呼ばれる人たちなのだとも思います(もちろんそうじゃない人もいると思いますが…。)

被写体に何ができるかという目的を達成するために、どういった方法で作品を情報の波の中で広めていくか。これをプロジェクトを通してやってみようと思い、2012年頃から準備を進めてきたのが、

Ibasyo Book journey Project です。

2010年以来、このストーリーの写真集を出版しようと思い、日本・欧米含めて色々と出版社を訪ね歩きましたが、心ある編集者に出会っても社長からOKが出なかったり、「こういう題材は売れないから」という理由で断られ続けました。自費出版しても本は売れますし、そのための費用も貯めてはいましたが、時間が経つにつれ、ただ出版して写真集を売るという行為に、このストーリーを撮影している写真家として、必然性が見いだせなくなってきていました。

そんな時、撮影していた当時に彼女たちが言ってくれた言葉を思い出しました。

「撮られた写真を見ることで、自分自身を見つめなおしたい」

撮影を始めた当初は、いつものように写真を広めることを頭の中に思い描いていましたが、彼女たちの言葉は、このプロジェクトにもう一つの目的を与えてくれました。

被写体となってくれた人たちに直接何かできるプロジェクトになる可能性ががあるのではないか。

撮影を進めていくと、彼女たちが子どもの時、または大人になってから遭ったトラウマが、彼女たちの自尊心を大きく傷つけたことを知るようになりました。誰しも自分のことはかわいいものですが、 彼女たちは自分自身を受け入れられずに苦しんでいました。

傷ついた自尊心を取り戻すのは簡単なことではありません。でも、もし誰か他の人が、「彼女たちの存在を認識している」と、「彼女たちが知る」ことができたら。彼女たちが自尊心を回復させる過程で何か意味のあるものを作れないだろうか。そんな気持ちからこの本を作るに至りました。

撮影させてもらった女の子たちの中には、すでに自傷行為から抜け出し、元気に生活している人もいますが、抜け出すにはもう少し時間のかかりそうな人もいます。もしかしたら、少し上から目線に聞こえるかもしれませんが、彼女たちに

「あなたは大切な存在ですよ」

と感じてもらうことができたら、と考えています。

 

– 目的 –

この写真集は 6 冊あります。撮影させてもらった彼女たちの人数分です。本の後半は白紙です。この本を借りてくださった方に、短くても構いませんので、何か書いて頂ければ嬉しく思います。写真の感想でも、彼女たちへのメッセージでも、どんなことでも構いません。今まで本を借りてくれた人の中には、文章を書いてくれた人もいれば、絵を描いてくれたか人もいます。写真を貼り付けたり、刺繍をしてくれたり、それぞれの方がそれぞれの方法でメッセージを残してくれています。

当初は、この本を半年〜1年ほど貸し出し、後半の白紙が埋まったところで彼女たちに渡そうと考えていました。ただ、予想に反して多くの方が興味をもってくれ、この本が世界中を旅し始めてから2年半が経ってしまいました。ようやく海外で借りてくれる人も落ち着いてきたので、最後に日本で貸し出して、彼女たちの手元に届けるつもりです。

最終的には、書き込まれた本を元に、写真集を出版できたら、と考えています。手作りのプロジェクトですが、皆さんにご参加頂ければ大変ありがたく思います。

 

– 触れられるということ –

この写真集はすでに多くの国を旅してきました。本は人の手に触れられることで、それなりに汚れたりもしていると思います。もちろん丁寧に取り扱って頂ければありがたいのですが、人の手に触れたことがわかるということは、本を借りてくれた人たちが、彼女たちの写真を見て、彼女たちや本の存在を認識してくれているということなのではないかと考えます。彼女たちが最後に本を受け取った時に、多くの人が彼女たちの姿を認識したということがわかることが重要だと考えています。

 

写真家プロフィール: 岡原功祐

1980年東京都出身。早稲田大学卒。南ア国立WITS大学大学院中退。大学在学中、コソボを訪れたことがきっかけで写真を撮り始める。大学卒業後から人の居場所を主なテーマに、中南米、アフリカ諸国、日本などで撮影を続けている。主に国内外の新聞・雑誌で作品を発表し、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ポーランド、トルコ、中国、バングラデシュ、シリア、タイなどの美術館やギャラリー、フォトフェスティバルで写真展も開催。国内では東京都写真美術館、Tokyo Photoなどで作品を展示。

2007年にパリでVU’ に参加、2010年脱退。2009年には世界報道写真財団が世界中の若手写真家から12人を選ぶ Joop Swart Masterclassに選出。Photo District News が選ぶ世界の若手写真家30人、文化庁新進芸術家在外派遣にも選ばれる。また2010年には、W.ユージン.スミス賞2位。2012年には原発事故後の福島を撮影した作品で、Getty Images Grants、2014年には10年以上撮り続けているコロンビアの麻薬社会のプロジェクトで Pierre & Alexandra Boulat Awardを受賞。2013年、中国のハンセン病回復者たちの村を記録した写真集「Vanishing Existence 」(Backyard Project刊)、2014年に中南米から北米への移民たちを追った写真集「Almost Paradise」(Only Photography刊)、2015年には原発事故後の福島を撮影した写真集「Fukushima Fragments」(Edition de la Martinière刊)を上梓。

フランス・パリ及びドイツ・ライプツィヒ在住

www.kosukeokahara.com